汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
エピローグ
2006年12月

その後、龍二は借金返済をするため取引で交流のあった中京・関西圏のブローカーと結託し金融ブローカーをやり始めた。

愛知や静岡で活動を主に行っていたた龍二は指定暴力団二次団体ではあるが組織のトップとも組み、表向きはコンサルタント業務として十数社の中小企業と契約した。
倒産寸前の社長達は自分がどんなにあがいても借入できなかったのに龍二が経理責任者として就くと五社から僅か一ヶ月で三百万円から一千万円、総額二千二百万円を取り付けた。
それは、決算書や納税証明書を偽造したTK時代のおさらいみたいなものだった。
報酬は多少前後したが所謂「トリハン」50%の手数料を荒稼ぎした。
しかし、裏稼業など長く続くはずもなく仲間割れもあり僅か半年でピリオドを打った。

そんな中、金融ブローカーで詐欺紛いを働いたことが露見した中小企業の社長から訴訟を起こされた。
そして、最終的には和解成立をしたが和解金として五百万円が更に飛んだ。
そんな金額が用意できるはずもない龍二だったが自分自身の債務と債権を相殺整理し、借入はほぼなくなった。
そして和解金は、龍二に過去助けられたと言う友人達が長年貯蓄していた貯金を全て出し用立ててくれた。

そんな傷心の龍二は故郷千葉に帰って来たが帰る家はもはやなく家族に顔向けさえできる状況ではなかった。
そんな折、運送業時代共に下請会社社長で当時共に走り回り世話になった外山博に電話をした。

「外山さん、廣岡です」
「龍二かぁ、久しぶりだな、5年振りくらいか、商売うまくいってるか」
「実は失敗し、財産失いました、運転手から出直す覚悟です、どこかありませんか?」
「何だ失敗したのか…でもさくよくよしたって仕方ないだろ」
「まあ、とにかく働かないと、って思いです」
「しかし、龍二は相変わらず悪運強いな、実は俺が今いる親会社が澁川倉庫なんだが、そこで大型が一台空くんだ!まだ決まってないから紹介するが行くか?」
「ぜひ、よろしくお願いします!」
澁川はご先祖と所縁のある企業、、、何てタイミングなんだ!と、龍二は思った。
こうして龍二は外山を頼り仕事にも復帰した。

そして、かつて粉飾決算を行ったとTKエンタープライゼスの顧問弁護士から訴えがあり裁判沙汰となった。
最終的には無罪を勝ち取ったが、その過程で足しげく弁護士事務所へ通っていた。

師走の南房総は海風に煽られ半端じゃない寒さにかじかむ。

弁護士事務所帰りの龍二はコートの襟を立て、館山駅から海岸通りを南西に歩く。
朝から何も食べていない龍二は誰に言うでもなく一人呟いた。
「腹減ったな…」
しかし、所持金はポケットに僅かな硬貨しかなかった。
翌日にはある程度の金額が入るが、この日は弁護士事務所へ行く費用しかなかった。

いつか読んだノンフィクション小説をフッと思い出した。
それは小説の作者がアメリカへ単身留学した時、やはり金がなくパンを買うならコーラで空腹を満たした、と言う内容だった。
パンだとすぐにまた空腹になるが、コーラで満たすと食欲もなくなるらしく真似をしようと考えた。
砂浜から押し寄せる砂埃の海岸通りを2キロくらい行くと右にコンビニエンスストア、左に飲料自動販売機があった。
龍二は自動販売機の前で止まりポケットを探った。
そして、なけなしの硬貨を自販機に入れコーラの350cc缶を買った。

寒いのに冷たいコーラで更に身体が冷えた。

しかし、炭酸で空腹が満たされた気がした。

何となく嬉しくなった。

まだ負けない自分がいる、まだ闘う自分がいる、と思った。

いつの間にか身体は芯まで冷えているのに、身体から言いようのない熱い滾りを感じ、今だに助けてくれる仲間達への感謝の念で一杯だった。

そして、早く帰ろうと走り出した。
と、その時、龍二が乗ってきた最終列車が館山駅から車庫に向かうため鳴らした汽笛が聞こえた。

今日は終わった。
しかし、また明日も走るんだ。
明後日も明々後日も、ずっとずっと走り続けるんだ。
そして自分も死ぬまで走り続けようと思った。

見果てぬ夢をもち続け、闘い続ける決断をし、人生を賭けたチャレンジの旅が再び始まった。

男鹿、宗谷で書いた志、
「不あればそれを正し、正しくあれば遂行し、何も無きは創るべし」
それを胸に抱き…

冒険心、、、人生の闘いは死ぬまで終わらない…

…完…

2008年9月リリース
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