好きって言って、その唇で。



「いやさすがにおかしいでしょ」


無人の廊下を歩きながら、誰にともなくそう呟いた。

片桐さんがアプローチをしなくなって早3日。花も贈られて来ないし挨拶もされないし、それどころか姿も見せない。

あんな人だけど支社長だし、仕事が忙しいのかな。それとも。


「飽きられた?」


全く靡く気配のない私に興味を失った可能性も大いにある。それならそれで私はいつも通りの日常を送るだけだ。


「あ」


廊下の向こうから、こちらに向かって歩いてくる人物を見て、私は声を上げた。


「片桐さ……」


呼ぶや否や、彼はハッとした顔をして踵を返した。


「えっ?」


少しずつ遠くなっていく背中を見て私は目を見開いた。

一瞬人違いだったのかと思うけど、あんな目立つ金髪長身の男は片桐さんしかいない。


彼に付き合う意思はないことをハッキリ伝えたし、当然の結果でもある。だけど、あれだけアプローチしておいて振られたら無視だなんて虫が良すぎないか。

あ、今のちょっと上手かった。と自分で小さく笑っていると片桐さんの姿が先程より小さくなったのが見えて私は慌てて駆け出した。


「ちょっと!止まってください!」


愛だの何だの人に囁いたくせに手のひらを返したように冷たい態度を取る男に腹が立ってきて、大股で追いかける。


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