不器用王子の甘い誘惑
 2次会は断って、帰る組の方にいると何度も「主役だから」と誘われる。

 いつもならどんなに眠くてもどんなに疲れていても行くように心がけているけれど、今日だけは譲れなかった。

 紗良を他の奴に送らせたくなかったから。

 残念そうに見送られ、2次会組は繁華街の方へ足を向けた。
 帰る組は店から少し離れて、同じ方向へ帰る人とで駅まで行こうと話す者や、タクシーで乗り合わせようと言う者など様々だった。

「さぁ。紗良ちゃんはどうしようか。」

 紗良ちゃんと呼ぶ、確か大池さん。
 女の子をちゃん付けで呼びそうにない人なのに、どんな仲なのかと胸がざわざわする。

「いつもみんなと反対方向だからな。
 ま、俺が今回も電車に乗るまでは……うーん。
 今回はタクシーに乗せた方がいいか?」

 早瀬主任の呟きに紗良は「電車で帰れます」と先ほどよりはしっかり発言している。

 早瀬主任は、信頼できる人だと思うけど、それでもやっぱり他の人に送らせるのは……。

「どっち方面ですか?」

「そっか。松田くん同じ方向だと助かるな。」

 今までに居なかったメンバーの俺に期待がかかる。
 行き先を聞いて「俺、同じ方向です」と言えばみんな安堵した表情で、俺は紗良の送り係に任命された。

 送りたいとはみんな思わないんだな。
 さすがに社内の子に送り狼にはなれないからか……。

「私、コンビニでお茶買いたいですけど、いいですか?」

「構わないよ。」

 駅に向かうメンバーに別れの挨拶をして、紗良と一緒にコンビニへ向かった。

 しっかりした足取りで歩く紗良に、お店にいた時の酔いはもう醒めたのかなと様子を伺う。

 コンビニに入ると迷わず飲み物コーナーに行く紗良の後に続いて俺もすぐ近くに立った。

 飲み物を選んでいる紗良が顔を横に傾けて髪を耳に流すようにかけた。
 その全てが身長差のために見るつもりがなくても見下ろせてしまう。

 無防備に露わとなった首すじに目を奪われて、思わず目をそらした。
 顔に手を当てて僅かによろめいた体が情けない。
 近くのガラスにもう片方の腕で支えるようにもたれかかる。

 ガラスの向こう側にはペットボトルが整列していて哀れな男の姿を観察してるようだった。
 



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