不器用王子の甘い誘惑
20.知られたくなかった
 松田さんと交代で今度は亘と呼ばれていた人が戻ってきた。

「悪いな。せっかく爽助と来たのに。」

 松田さんとはタイプが違う少年みたいな雰囲気の人だった。
 きっとこの人もモテるんだろうなと思って、イケメンの友達はイケメンなんだなぁと感心した。

 亘さんは先ほど飲んでいたグラスを傾けて話し始めた。
 手持ち無沙汰で構われているグラスは氷がほとんど溶けていて、水みたいな味がしなさそうな液体がグラスを漂った。

「ねぇ。……君がどう思ってるか知らないけど、俺さ爽助は麗華が似合ってるって思うんだよね。」

 急に言われた言葉に胸がドクドクと早い鼓動に変わっていく。
 亘さんはグラスを見つめたまま、紗良の方さえも見ない。

「はい……。私もそう思います。」

 かろうじて口を出た言葉。

 誰が見たってそう思うよ。
 お似合いだもの。

 そう思うのに、分かり切ったことなのに惨めな気持ちになる。

「………そうだよな。良かった。」

 安堵したというよりも落胆したような声を聞いて、なんて答えるのが正解だったのか分からなくなった。
 もしかしてこの人も麗華さんのこと……?

「ねぇ。亘も手伝えよって爽助が呼んでるわよ。」

 今度は美しい長い髪をかきあげた麗華さんが席に来て、微笑んだ。
 女の私だってドキドキする麗華さんから亘さんは松田さんを奪えとでも言いたいのかな。

「爽助っていい人よね。」

 色っぽい声で呟いた言葉は私に意見を求めているのかは分からない。
 ただ、乾いた口から質問が転がり落ちた。

「松田さんのこと……好きなんですか?」

 一瞬、目を丸くした麗華さんが目を細めて微笑んだ。
 その微笑みは温かいものだったのに、紗良の心は冷え切ってしまった。

「さぁ。どうかな。」

 居た堪れなくて立ち上がった。
 麗華さんが驚いていそうだけれど、そんなこと気にしていられなかった。

「あ、あの。ご馳走様でした。
 私、帰ります。
 松田さんにもそう伝えてください。」

 何か声をかけられる前にお店を出た。
 何を言われたって惨めになるに決まっているから。






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