不器用王子の甘い誘惑
22.王子様なんていない
「指が綺麗だって褒められた忘れられない人もさっきの人?」

 抱きしめられたぬくもりが優しくて、馬鹿みたいな、思い出したくない昔話をしてるのに、もういいんだよって自分を許していいんだよって言われてる気がした。

「ううん。ずっと忘れられない男の子の『こうくん』にです。
 王子様の『こうくん』は大切な思い出なんです。
 だから……いいんです。思い出のままで。
 現実を生きるって決めたから。
 王子様なんていないんですから。」

 そう。決めたんだ。
 地に足をつけて。現実を見るって。
 夢なんか見ないって。

 なんでこんな話、リアル王子様の松田さんに話さなきゃいけないの。って八つ当たりしたい気分だった。
 あんなところであんな人に会わなければ……。

 ………ううん。きっとまた夢を見そうになっていた私に神様からの鉄槌だったんだ。
 同じ過ちを繰り返さないでって。

 例え松田さんが本物の王子様みたいな人でも、別の人が好きなんだよ!勘違いしないで!って。

「変な話してごめんなさい。
 もう大丈夫ですから。
 それに松田さんの恋はこれからも応援してます!」

 体を押し離して出来る限り元気に言った。
 笑顔までは作れなかったけど、でも応援するのは本当だから………。

 黙っていた松田さんがハハハッと意味深に笑ってポンポンと肩をたたいた。

「ありがとう。
 練習もしてくれるんでしょ?」

 な………どうしてそうなるの?

「いや。練習しなくても十分………。」

「そんなことないよ。
 手強くて全く落とせそうにないんだ。
 彼女が俺のこと見るまで練習に付き合ってよ。」

 全く?松田さんが?
 天界の人達は全然分かんないよ。

 さっきまで、騙された人のことを話すのが辛くて悲しかったのに、今は松田さんの練習話に振り回されている。

 振り回されてるから……というよりも、きっといっぱい泣いて話して……それを松田さんが非難したり馬鹿にしたりしなかったから。

 そんないい人が片思いの人に振り向いてもらえないなんて………。




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