不器用王子の甘い誘惑
30.心細い
 あんまり触るのは良くないと思うから、部屋にあったモップでフローリングを掃除して、流しに溜まっていたコップやお皿を洗った。

 基本は綺麗好きなんだろうなと思う部屋は無駄なものは無かった。
 1人で暮らすには広くて羨ましくなる部屋は寝室が別になっていた。

 そこで眠る松田さん。
 練習と言われて『爽ちゃん』と声をかけた。
 松田さんの練習なのに、なんだか甘えてるみたいな松田さんについ口を出ていた。


 松田さんの側に行って、ベッドのすぐ近くに座る。

 顔にかかっている髪をそっと払って、おでこに手を当ててみると前ほどは熱くない。

「紗良………。」

 ゆっくり開いた目が紗良を捉えて胸を鳴らした。

 寝顔から寝起きすぐもかっこいいとか完璧だよね。

「起きました?何か食べれます?
 調理器具が少ないからフルーツとかにしてあげてって。」

「誰に?」

 さっきよりもハッキリした松田さんに少しだけ残念だった。
 熱に浮かされた松田さんは不謹慎だけど可愛いかったから。

「すみません。麗華さんです。
 鍵も麗華さんが松田さんのお父様とお知り合いだからと渡してくれました。」

「あぁ。そっか。麗華か。
 ここは父のマンションでね。
 投資用か何かで買って使ってないからって使わせてもらってるんだ。
 大学の頃からずっとここ。」

 さすがリアル王子様。

「すみません。本当は麗華さんが来た方が良かったですよね?」

「………何が?」

「いえ。なんでもないです。」

 麗華さんに勘違いされてないかな。
 前に水族館の帰り、私といる時に麗華さんに話しかけたりしたから。

「勝手に入ってすみませんでした。
 風邪でダウンしても自力で帰られたと聞いて、入らない方がいいんじゃないかって。」

「ううん。風邪の時って心細くなるよね。
 目を開けた時に紗良がいてくれて嬉しかった。」

 松田さんの手が伸びて、そっと頬に触れる。

「キス……した?
 俺、なんか夢見てて。」

「してません!」

 やっぱり松田さんはセクハラ大王なんだ!
 からかって面白い……よね。
 松田さんはキスくらいでって思ってるよね。

 形のいい唇に目がいってしまって、一気に顔が熱くなる。

「やっぱりした?」

「してませんってば!」

 松田さんはキスくらい、どってことないんでしょうけどね!

「ごめん。からかって。
 お願いだからこっちに来て。」

 やっぱりからかってたんだ!という思いと、やっぱり風邪ひきで甘えっ子だ可愛いと思う気持ちになりながら、キス騒動で後退っていた距離を戻した。

「今日……仕事は平気?」

「土曜ですよ?」

「あぁ。
 ハハッ。張り切り過ぎてたかな。」

「私には分からない仕事ですけど……。
 体は大切にしてください。
 って私が言えないですね。
 私も倒れてますからね。」






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