不器用王子の甘い誘惑
35.だから目の前で
 部長の話をぼんやり聞いていた。

 ずっと忙しかった松田さんがしていた仕事は前に紗良が出た会議のスリーピングとシープが共同開発する案件ももちろん、一番はシープの改革だった。

 お昼休みに女の人に囲まれていたのも女の人の意見を聞く為だったらしい。

 女の人にも男の人と同じ権限を。というようなことをしていたみたいで、要は男女平等を会社に取り入れようということみたいだった。
 手始めに経理課の天野さんは主任になった。

「松田さんすごいよね。
 古い風習を一気に変えようってなると抵抗する人もいるし、大変だったと思うよ。」

 お昼休みに未智に解説してもらった。
 だから忙しそうだったんだって理解した。

 古い風習は確かに……私は前のままでも良かったなんて言ったら松田さんガッカリするだろうな。

 私みたいな役職や出世は望んでいない人は断ることもできる。
 それはもちろん男の人も同じだ。

 それと共にコピーを必ず女の子に頼む人は自分でコピーをする意識改革をしましょう。
 ということまで盛り込まれていた。

「確かに松田さん自分でコピーしてたもんね。
 王子様は違うなぁと思ってた。」

 概ね女の人の理解は得ているみたいで、みんなが褒めている。

 私は……私はよく分からない。
 あの日から松田さんのことが分からなくて長い夢を見てるような気がしていた。



 解散の時間になると松田さんが同じ方向だと手をあげる。
 絶対に違うのに、違うとも言えなくて送ってもらうことになった。

「コンビニ。行くでしょ?」

「……はい。」

 デジャブを見ているように私は微糖の紅茶を買い、松田さんはブラックを買った。

「久しぶりに話すよね。」

「はい。」

「留守電は聞いてくれてたのかな。」

「………はい。」

 留守電と同じ声。
 それより糖度は低めだけれど。

 あんな甘い言葉、松田さんのそっくりさんなんじゃないの?って思えるほどの言葉の数々で………。

「王子様は信じられそうかな。」

「それは……。
 だってこんなに早くスリーピングの方に戻るなんて知りませんでした。」

 何も言ってくれなくて仕事が落ち着けばまた隣の席で仕事ができると思ってたのに。
 シープは期間限定だってことすら知らなかった。

 これって重要なことだよね。

「それはいいことだと思って。
 シープの社員じゃなくなれば、怖い先輩は気にしなくていいでしょ?」

 そういうことじゃなくてさ。

「留守電は……聞きましたけど、なんていうか……。」

「何?」

「本当に松田さんですよね?あれ。」

「はぁ?」







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