不器用王子の甘い誘惑
 紗良のおばあちゃんは足を悪くして、福祉施設に住んでいた。

 真っ直ぐに生きていればお天道様が見ていてくれるよといつも言ってくれるおばあちゃんだったと紗良から聞いた。

 子どもの頃に紗良から「爽助くんはお日様みたいだね」と言われた。
 そう言った紗良の方がお日様みたいな笑顔だったことは忘れられない思い出の1つ。

 こうくんっていつから呼ばれたかな。
 思い出の中の紗良はいつだって爽助くんで。

「松田さん。どうしました?」

 現実の紗良はいつまで経っても、松田さんだけどね。

「おばあちゃんの前くらい爽助って呼んでよ。」

「だって慣れなくて。」

「亘は亘さんなのに。」

 拗ねた声を出すとクスクス笑われる。
 敵わないなぁ。本当に。



「おばあちゃん。紗良だよ。」

「あらあら。紗良ちゃん。
 そちらは……こうくん?
 良かったねぇ。会えたんだねぇ。」

 紗良にどことなく似た可愛らしいおばあちゃんは何度も何度も俺の手をさすってくれた。
 紗良はちょっと涙ぐんで「こうくんじゃなくて爽助さんだったんだよ。おばあちゃん」って説明している。

「おばあちゃん、俺、紗良を幸せにするから俺たちが結婚するまで元気でいてよ。」

「まぁ。そう。
 良かったわねぇ。紗良ちゃん。」

 泣き声の紗良がおばあちゃんの手を握る。

「ううん。おばあちゃん。結婚だけじゃなくて私に赤ちゃんが生まれても元気でいてね。」

「まぁまぁ。そうねぇ。
 紗良ちゃんの赤ちゃん可愛いでしょうねぇ。」




「ありがとうございます。」

「ん?」

「おばあちゃんに。
 安心してもらうために言ってくれたんですよね。
 おばあちゃん、私の結婚を心配してたから喜ばせられて良かったです。」

「うん。安心して欲しかったのもあるけどね。
 おばあちゃんを前にしたら嘘つけなくて。」

「ん?どういう……。」

「クリスマスに言ったでしょ?
 鍵と迷ったって。」

「えっと………。」

「婚約者。これも約束だよ。約束。」

 紗良の手を取って、その小指に自分の指を絡めた。
 そして、その手の中に小さな箱を渡す。

「してもいいなって思ったらはめて。」

「………松田さんには敵わないよ。」

「ハハッ。俺もよくそう思うよ。
 紗良には敵わないなぁって。」

「爽助さん?」

 最後の言葉が甘く跳ねて、俺はそれだけでやられちゃうのに。

「ん?何?」

「幸せに……なりましょうね。」

「あぁ。そうだね。」






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