消極的に一直線。【完】
「今日誘われてたの断ったからさ、会うとまずいんだよ」



まさかあいつもこの神社に来るなんて、とため息混じりに呟く倖子ちゃん。



それを聞いて、不覚にも、嬉しいと思ってしまった。



倖子ちゃんは、彼氏とのデートを断って、私と初詣に来てくれた。



すごく申し訳ないのに、すごく嬉しい。



「しまったなー。あいつは違う神社に行くと思ったのに」



倖子ちゃんは毎年、彼氏と初詣に行ってたのかな。



なんだか、倖子ちゃんが、すごく大人に見える。


彼氏がいるって、どんな感じなんだろう。
私には全然、想像もつかない。



「ごめんね、雫。甘酒行こっか」



頷くと、倖子ちゃんはふっと笑った。



その顔を見て、ふと、思う。


倖子ちゃんは、彼氏には、どんな顔をして笑うのかな。やっぱり、好きな人には、違う顔をするのかな。



カフェで見た、鈴葉ちゃんと颯見くんのお互いを見る顔も、私に向けるものとは違っていたなぁ。

なんて思い出して、きゅっと胸が締め付けられた。



「どうしたの? 行こうよ」



動かない私を振り返って、倖子ちゃんがくるくると髪を触る。



「あ、うん」



じゃり、と左足を踏み出して、倖子ちゃんに追いつこうとした。








「哀咲……?」







もう一歩進もうとした足が、その場に縫い付けられる。


小石が音をたてる代わりに、トン、と胸の奥が音を鳴らした。



じゃり、じゃり、と横から近づいてくる気配に、敏感すぎるぐらい心臓が反応してしまう。



「哀咲、だよな?」



急に緊張して、身体中に熱がのぼってくる。


なのに、すごく、心は高揚してる。



ゆっくりと、その気配に顔を向けた。



「やっぱり哀咲だ」



くしゃり、と笑った。





痛いくらいに、心臓が動きを速くする。



どうしてだろう。


颯見くんの吐く白い息も、寒さで少し赤らんだ頬も、優しい目も。


吸い寄せられるように、目が見つめてしまって、離せない。
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