図書室の花子さん(仮)

再び彼が現れたのは。

こちらを一瞥した斎藤くんは、暫く来ていなかったのが嘘のように、いつも通り一番奥右端の本棚へ行き、1冊の本と共に帰ってきた。

夕暮れの図書室、久しぶりにカウンター越しに斎藤くんと向き合う。
教室では、もう喋り慣れてきたというのに、ここで会うのは、やはり緊張する。

図書室は私語厳禁である為、彼が持ってきたスポーツ関連の書籍のバーコードを読み取って、定型文を付けて渡す。


「ありがとう、日下部さん。」

カウンター越しでは、会釈しか見せなかった彼が、初めて私の名前を呼ぶ。

微笑んだ彼は、以前図書室で会った頃より、大人びた雰囲気を纏っているように見える。
その姿に見惚れていると、

「そんな目で、ずっと此処から、見ていてくれたんだ?」

と彼がグラウンドに目を向けながら呟いた。

その言葉に戸惑う。私は今、どんな目で彼に視線を送っていたのだろうか。
恥ずかしさに思わず俯く。
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