極上スイートオフィス 御曹司の独占愛
「え……はい。ごめんなさい」
あまりに怖い顔をしているものだから咄嗟に謝ってしまったけれど、私はただ聞かされただけだ。
「怖がらせてごめん。真帆は悪くないよ」
我に返ったように彼が少しだけ表情を和らげて、私の髪を撫でる。
けど、何か考えているようで、すぐに難しい顔に変わった。
そうか。
朝比奈さんの異動があの頃まだ内密だったなら、倉野さんが私に喋ったのは秘書としては褒められたことではないはずだ。
「あ、でも。倉野さんは私がもう朝比奈さんから聞いてると思ったみたいで」
「それは関係ない。些細な情報でも秘書がそれを漏らすなんてあってはならないよ」
厳しい表情でそう彼は断言する。
「……プライドの高い人なんだけどね。まさか真帆にそんな接触の仕方をしてるとは思わなかった。気づかなくてごめん」
申し訳なさそうに眉尻を下げる彼に、大丈夫だと首を振った。
「ともかく、彼女と会ったのはその二回。すごい確率だね? それを真帆が偶然見るなんて」
「……うん」
ほんとに偶然?
百パーセントの確率で目撃するなんて、まったくありえないことはないけれど出来過ぎている。
暫し俯いて考え込んで、会話が止まってしまったことに気づく。
顔を上げると、朝比奈さんがじっと私を見ていた。
「信じる?」
「えっ?」
「もっと何度も会ってるはずだって、今も思う?」
言葉だけでは、信じられない?
そう聞きたいのだろう。
だけど今疑ったのはそのことじゃなかったことに、自分でも驚いていた。
「そうじゃなくて。……偶然じゃない可能性ってあるのかな、って考えてた」