春になったら君に会いたい

「…そ、れは、」
「それにね、重要なのは桜が咲いてるかどうかじゃないの。冬くんが、私に大切な場所を教えてくれるってこと、それが私にとっては嬉しいことなんだよ」

そう言ったのぞみの目は、いつもより真剣だった。少し焦りもあるような気がした。それが何に対してなのかはわからない。

「…わかった。じゃあ、俺のおすすめ桜スポットに決定で。実を言うと、正晴にも教えたことないんだけどな」

その真剣さに答えないわけにはいかない。のぞみにとって、そこに行くことがどれだけの価値を持つのか俺には分からないが、きっとすごく大切に思ってくれているのだろう。

「ふふ、私、正晴くんに勝っちゃうんだ。今度会ったら自慢しとこ」

いたずらに笑う彼女は、やはり愛おしくて、早く一時退院の日が来ればいいと思った。早く一緒に桜スポットに行きたい。
そこで、ふと気づいたようにのぞみは付け足した。

「あ、でもね、今回の一時退院は一日だけなの。だから、冬くんといられるのはお昼すぎぐらいまでかな」

高まっていた気持ちが、急に現実に引き戻される。仕方がない。こればっかりはどうにもならない。もっと長くなればいいなんて、のぞみが一番思っていることだろう。俺は、そうか、と頷くに留めた。



さて、その後、二人で色々な話をして、計画を立て、俺は病室を後にした。来るときのドキドキ感は薄れて、代わりにデートへの期待が高まっている。バイトの調節しなきゃな、とか、着るもの用意しないとな、とか、考えることはたくさんあったが、それを考えることすら楽しく感じられた。

< 124 / 154 >

この作品をシェア

pagetop