春になったら君に会いたい
「待って、付き合ってるかどうかだけは教えて」
3杯目のビールが届いたころ、父さんが急にそんなことを言い出した。何を待ってほしいのか意味不明だが、いろいろと何か考えていたのだろう。
「付き合ってないし、付き合う気もない」
嘘のない答えだ。ただ、付き合いたいかという質問であれば、答えは違ったかもしれない。父さんは、はっきりと言い切った俺に、少し驚いた顔をした。ちょっと前の俺なら、こういうことを聞かれたときに照れたり、怒ったりしていただろう。平然と答えた俺に驚くのも当然だ。
「そうか」
相槌を打った声は、だいぶ穏やかだった。もっといろいろ聞いてくるかと思ったが、そんな素振りもない。驚いていた顔も、気がつけば柔らかい表情になっていた。