春になったら君に会いたい

それからすぐに荷物を持って家を出た。ここから先、4ヶ月近くこの家には母さん一人になる。しっかりしている人だが、何かに巻き込まれないとも限らない。俺は心の中で母さんの安全を祈った。俺が眠っている間に、何かが起こってしまうのがいちばん怖かった。
 
親子二人でのドライブは静かだった。母さんはそんなに口数が多い方ではないし、俺も一人でしゃべり続けるタイプではない。だが、これはこれで心地よく感じた。ちなみに、ここに父さんがいたら、父さんがずっとしゃべり続ける流れになる。

「どこか寄りたいところある?」

20分ほど車を走らせてから、母さんがそう聞いてきた。残り時間を考えると遠くに行くことはできない。叔母さんへは今年最後のバイトのときに挨拶をしたし、正晴は夕方ごろ病院に寄ると言っていたので、今会っておくべき人もいなかった。

「んー、特には……」

窓の外を眺めながら答えると、ふと一軒の店が目に入る。こじんまりとした花屋だった。その店はそのまま通り過ぎてしまったが、花屋に寄って花を買うのもいいなと思った。せっかくならのぞみに贈りたい。

「ここら辺でいい花屋知ってる?」
「花? それなら駅の向こう側に、たまに買いに行くお店あるけど」

母さんは不思議そうな顔をしつつも答えてくれる。花を見るのは好きだが、花屋に行くことはめったにない。なので、この情報はありがたかった。駅の周辺なら、ここから行ってもそんなにはかからない。そこへ向かってほしいと言うまでもなく、車はそちらの方向へ進み始めた。
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