春になったら君に会いたい



「私、次の春は迎えられないんだって」






咄嗟に「は?」と声が出た。のぞみの言っていることがわからない。


次の春は迎えられない?

それはつまり、春になる前に死ぬってこと?


彼女の言葉が、そのまま頭の中をぐるぐると回る。

理解できないはずないのに、理解できない。そんなことわかりたくない、と脳が拒絶しているようだった。



「私小さい頃から重い病気なの。二十歳まで生きるのは難しいって言われてた。それでね、この間体調が悪い日が続いてたから検査したら、病気がさらに進行してて。昨日、先生に次の春まで生きるのは無理だろうって言われちゃった」

垂れてきていた髪を耳にかけながら、彼女はそう言った。いつもより少し早口になっているのは、俺の気のせいではないだろう。



「嘘、だろ?」

なんとか捻り出した言葉はそれしかなかった。耳に届く自分の声は掠れている。驚きを隠せないということが丸わかりな声だった。


「ううん、嘘じゃない。……嘘じゃ、ないんだよ」

彼女のその言葉は、俺だけでなく彼女自身に向けられている気がした。

のぞみ自身、まだ気持ちの整理ができていないのかもしれない。聞いた通りなら、伝えられてからたった一日しか経っていないのだから。


今更になって、俺がどれだけ酷なことをさせたかに気づいた。そんな辛いことを話せだなんて酷すぎる。


「ごめん」

何も考えずに、謝罪の言葉が口をついていた。

それを聞いてのぞみが笑う。

「えー、なんで冬くんが謝るの! って、なんか前もこんな感じのことあったね。ほら、美術館行ったとき。覚えてる?」


のぞみなりに明るくしようとしてくれてるのが伝わってきて、なぜか泣きそうになった。

辛くないはずないのに、苦しくないはずないのに、明るく笑っている彼女。

素敵だと思った。綺麗だと思った。だけど、見ているのが辛かった。



なんて言おう。なんて言ったら、のぞみの苦しみを少しでも取り除けるだろう。

そう考えてはみるものの、人付き合いに慣れていない俺には気の利いた言葉は思いつかない。


それでも何か言わなくちゃ、と口を開いた時、病室のドアが音を立てて開けられた。


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