春になったら君に会いたい




「んっ……」

気がつけば朝になっていた。どうやら泣きながら寝てしまったらしい。頭が痛むし、目元は腫れぼったい。

カーテンの隙間から眩しい日差しが入ってきている。晴れの日は嫌いじゃないが、暗い気持ちの中では当てつけのようにしか感じなかった。



「冬、おはよう。朝ごはんできてるよ」

リビングでは母さんがいつものように声をかけてきた。聞きたいことは色々あるだろうに、何も聞いてこないあたり流石母親だと思う。

そんな母さんのささやかな優しさに心が少し温まった。

今日はこれから喫茶店でのバイトがある。いくら辛いことがあったからといって、それを仕事にまで引きずるわけにはいかない。俺はパンッと顔を叩いて、朝飯を食べ始めた。



外に出ると、すごく暑かった。蝉の声もたくさん聞こえて、いかにも「夏」という感じがした。

歩きながらこの夏のことを思い出す。
のぞみとの最初で最後の夏。

二人で出かけたり、しょっちゅうお見舞いに行っていろんな話をしたり、余命について告げられたり、体質について話したり。

短いようで長くて、でも長いようで短い夏。
今までで一番充実していた夏だったという気がする。


秋になったらもう冬までは三ヶ月しかない。
これからをどうやって過ごせるか、どうやって過ごしたいか、改めて考え直す必要があった。


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