海賊と少女
Begins
(なんでこんなところにいるんだろう)

海の中でゆっくりと沈んでいくあたし、
さっき空からこの海へ落ちたのだ。
落ちる寸前に見えたのは一面空の青と、海の青のグラデーション、
意識が途切れる前と景色が全然違う。
(どうして?どういうこと?)
考えようとしても海の中で息はできず、少ない酸素が頭までまわらない。
水を吸って重い制服がまとわりついておもうように泳げないし、ただ沈んでいくだけ。
(⋯ま、いーか)
もう終わったんだ、全部。
どうこう考えるのはやめにして沈むのにまかせよう。⋯苦しいのは嫌だが仕方ない。
あきらめて静かに目を閉じた時、
上から何かが海にとびこむ音が聞こえた。
薄く目を開ける。
視界の中にきらめく水面を背景に黒い人影がまっすぐこちらへ泳いでくるのがみえた。太陽の逆光と、薄くしか目を開けられないせいで顔を確認することはできない。
人影はすごい勢いで泳いで来てあたしを引き上げようとしているのか腕を掴んできた。
ごつごつとした大きな手。
(男の人?)
そんなことを考えながらひっぱられているが泳ぐスピードがさっきに比べて遅い。
完全に水をすった重い服を着て意識が途切れる寸前の人間を運ぶのは自殺行為だ。ましてやここは底の見えない海の中、自分だけならまだしも他人を道づれにして死ぬのは後味が悪い。
(この人には悪いが離してもらおう。)
空いた手で大きな手をはずそうとすれば水面へと向けていた顔をこちらに向けてきた。
やっぱり顔はわからない。
首を横にふって外そうとしても、がっちり掴まれて外せない。
より強くつかまれる。
(だめだって)
死んでもらってはこっちが死にきれない。
さっきより強く力をこめて外そうとした時、急に腰に腕がまわってきて体をひきよせられる。
なんだとおもうのも束の間、人影の顔がずいっと近づけられた。
顎をもちあげられ強制的に目をあわせられる。
(あっ、)

澄んだ海色の瞳

それに囚われたかのように身動きができない。
きっとそのせいだ、
唇に冷たく柔らかな感触を感じても反応できなかった。
触れ合うだけの軽いもの。
ただそれだけだけどあたしを大人しくさせるにはじゅうぶんで、
優しいそれと海色の瞳を感じながら、
また、意識が途切れた。
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