海賊と少女
食べおわった後まだ"むかえ"がこなかったので、もう一度思い出そうと思ったが進展がなかったので早々にあきらめた。
そのかわりに部屋の隅々を観察することにする。
失礼かもしれないと迷ったが、机の上に置いてあったものに好奇心が勝って心で一言あやまってから手にとった。
「地図⋯?」
横長の紙で使い込まれているせいか端々がボロボロだ、紙には茶色と水色の2色のみを使った陸と海が描かれている。陸の方には細かい読めない記号か文字がつづられ、海にはところどころに大きな文字が書かれていた。
きっと地図なんだろう、でもちがうと思うのは自分が知っているものとは全く違うからだ。
この大きさからして世界地図だ、なのに自分がいた"陸がない"。しかも記憶が間違っていなければ、他の陸の形も全く違う。
(偽物?それにしては⋯)
精密すぎる。書き込まれている内容はわからないが、偽物にここまで手のこったことはしないだろう。
でも、これが本物だとしたら
(だとしたら、あたしは)
思いついた考えに頭をふる。あまりにも現実離れすぎて信じられない。
(全部予想だ。あってるとは限らないし、勝手に決めつけるのはよくない)
そこまで考えてさっき出て行った男性を思い出した。
(あの人に聞けば本当かどうかわかる。⋯そういえば)
遅いなとドアに視線を向けた時上の方からドタドタと足音が聞こえてきて、何と思う暇もなくドアが勢いよく開け放たれた。
突然のことに頭の中は真っ白になったが、入ってきた人物を見た瞬間ここはどこだっただろうかと考えてしまった。
短い白銀の髪と瞳を持った人物がそこにいた。直接光に当たってるわけでもないのに光る白銀が神秘的な雰囲気をつくり、思わず魅入る。
(天使?)
ではここは天国だったのだろうかと本気で考え始めた自分をよそに、その人は天使らしかぬ足取りで近づいてきて勢いのまま両肩をつかんできた。反動で後ろに倒れそうになるのを何とかたえる。
「な、何⋯」
「よかったなー!お前!」
「⋯え?」
いやー、本当についてるよ!と言ってバンバンと肩を叩く目の前の"人"を見上げる。さっきまでの神秘さは、安心したように大きく笑う姿でどこかえ消えてしまった。
「見張りがウェルノでよかったな!じゃなきゃ誰も気づかねーよ」
「えっと、」
「後でちゃんと礼言っとけな」
「は、はい」
「顔色もいいし、食欲もあるし、マジでよかった!」
「あ、りがとうございます。⋯あのっ」
「ん?何だ?」
矢継ぎ早な言葉がやみ、やっと落ち着いて相手を見ることができた。
髪と瞳に目が奪われていてわからなかったが、肌の色は健康な色で人間らしい。ちらりと相手の後ろを見ても⋯羽は生えてないようだ。
一まずここは天国ではないらしい。それは良かったが女性にしては低すぎる声、顔つきも凛々しく体の方も丸みはなくて薄い感じがする。
(男の人だったんだ⋯てっきり女の人かと)
しっかり見ればまちがえることはないが、黙って立っていれば一見女性にも見える彼はいっこうに喋ろうとしないあたしに首をかたげ、どしたー、大丈夫かー、生きてるかーと聞いてくる。
「大丈夫です、生きてます」
と答えると、キョトっとした顔をしてから何が面白かったのか彼は急に笑い始めた。
「?」
「本当、律儀なんだなー。ヘンリの言った通りだわ」
「ヘンリ?」
「あれ、聞いてねーの?ヘンリはーー」
言葉を続けようとする彼の上から黒い影が落ちてきてーー
いや、落ちてくるではなくふりおろされて凄まじい音が響いた。ついでにそれを受けた彼のカエルのような声もつけて。
「勝手にすすめるな」
ゴロゴロと床を転がる白い彼を見下ろしたたずむ影。
(あれ?)
漆黒まではいかない深い黒茶色の短い髪と瞳、透き通るような白い彼とはちがい深い闇をまとう様。
(この人とは正反対だけど⋯)
交互に見て見る。
髪、目、体格、背 "同じだけどちがう"
「いってーな!何しやがんだ!!」
「お前が悪い」
「別にいいじゃねーか!今やったって、後でやったって変わんねーだろ!?」
「まとめてやるって言った」
「ちょっと教えてやるくらい」
「うるさい」
「ああ!?元はと言えば、」
「あのっ、」
取り込みの最中で悪いが置いてけぼりにされるのは困る。
白い彼は歯をむき出し黒い彼を睨んだまま、声をかけて反応したのは黒い彼の方だ。こちらをじっと黙って見る姿はなんとなく触れ難い雰囲気を出している気がする。人見知りじゃない、これは多分
(警戒⋯されてる)
「上、呼んでる」
「上⋯ですか?」
「ここのキャプテンがおまえを待ってるってよ。」
「キャプテン⋯」
ということは船長だろうか。
キャプテンと言われたらものすごく厳つい男性が頭に浮かぶ、その人に呼ばれていると思うと少し怖い。
(きっと質問攻めだろうな。食事持ってきてくれた人も言ってたし)
"俺達もあんたに聞きたいことがあるんだ"
何を聞かれるのだろう、ちゃんと答えられるだろうか。というか、それよりも
(お礼と名前を言わなきゃ)
うん、助けてもらったのだからまずお礼と名前を言わないと失礼だ。その後は⋯その時考えよう。
「じゃ、案内するわ。⋯とその前に」
「これ」
「?」
ずいっと出された布のかたまり。
なんだろうと見れば服で、そういえば今着ているものはブカブカのシャツ一枚だけだった。
「えっと、着替えですか?」
「ん」
「着ているものは」
「置いといて」
「あ、できれば顔」
「そこに水がある。洗桶も」
「えっと」
「水はそのままでいい。外にいる」
「わかりました」
「⋯言葉のやりとりしろよ!会話になってねーだろうが!」
「うるさい、さっさと行くぞ」
ぎゃいぎゃい騒ぎながらも二人がでていくと、静かになる部屋の中。
(仲が⋯いいのかな?)
喧嘩するほど仲がいいと言うし。
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