千の春
森のざわめき







「21まで生きてる時点で、君は人並みなんだ。そんなにがむしゃらにやったところで意味はないよ」

隣人の日向は当たり前のようにそう言った。
岬の前で、人並み、と。

日向は美術科の二回生。確か油画専攻。
ツンツンとした髪と、黒縁メガネが印象的な青年だ。
岬の一個下の20歳。
今年の成人式を楽しみにしていると、この前話していたことを思い出す。


「岬、怒った?でも本当なんだ」

「怒ってないけど」

「人間を超えた才能を持つ人は、神様に気に入られるからね。彼らは20歳になる前に死んでしまうんだよ」


芸術家ってのは頭のネジが飛んでないとなれない職業なんだろうか。
岬は日向の黒い瞳を見つめてそう思った。

ゆらゆらと揺れる瞳は岬を見ていない。
もっと後ろの、岬に憑いてるらしい、「何か」を見ている。






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