いつか、君の涙は光となる

「俺、お前に同情されるのなんか死んでも嫌だから、俺に触るなよ、絶対」

……まただ。また、明らかに敵意剥き出しの瞳で私を睨んでいる。この目を、私はきっと一生忘れないんじゃないだろうか。

「たとえ崖際で落ちそうになっても、吉木の手は取らずにそのまま海の塵になるから安心してよ」
まさか自分の口からこんなに強気な言葉が出てくるなんて、思いもしなかった。至近距離で睨み合ったまま、私たちは沈黙した。
……あ、吉木の目って、本当に奥の奥まで完全に黒なんだ。このまま覗いていたら吸い込まれてしまいそう。あれ、この感覚、私どこかで体験した気がする。
いつのことか思い出そうとしたその時、またあのキンとした痛みが頭に走り私は思わず目を閉じた。そんな私に追い打ちをかけるように、吉木は口を開く。

「ここまで近づいても、ムカつくこと言っても、お前は俺を思い出せないんだな」
「え、どういうこと……」
「もしお前が俺を思い出したら、お前の目の前から消えてあげるよ」
私達は、過去に出会ったことがある? そんなわけない。こんなに私を嫌ってる人がいたら忘れるはずはない。でも、私の記憶の中には自分でも触れられない部分がある。もしそこに、彼が関係しているとしたら――……。

「俺に消えて欲しかったら、思い出してみろよ」
吉木の前髪についていた雫が、毛先からぽたりと私の肩に落ちた。消えて欲しいとまで思ったことはないのに、話を勝手に進めないで欲しい。
「私に、思い出して欲しいの?」
そう聞こうとしたのに、彼はすっと立ち上がってプールサイドから去って行ってしまった。
あのキンとした痛みの中に、彼は存在しているのだろうか。もしそうだとしたら、私もその記憶に触れて、思い出したい。
なぜなら、この能力が身についたのは、「あの日」がきっかけだったから。




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