いつか、君の涙は光となる


「俺さ、ずっと思ってた。詩春と吉木の間に流れる空気って、一体何なんだろうって」
 私に向かって話しかけているはずなのに、宗方君は窓の外の遠くを見つめている。宗方君が机に肘をかけた時、安っぽいパイプ椅子が軋む音が響いた。
「最初は吉木に怯えてるみたいだったから、もしかしたら詩春は吉木が苦手なのかなって思ってた。でもそうじゃなかった。詩春は、吉木の前でだけはカッとなったり落ち込んだり笑ったりするんだ」
「そ、そうかな……。でもそれは吉木が尖った性格だからで」
 そこまで言いかけると、宗方君は眉をハの字にして柔らかく笑った。確かにそうかもしれないけど、って。宗方君のチョコレート色の髪の毛が夕日に照らされて、溶け出してしまいそう。
「キャンプに行った日のこと覚えてる? 悟さんのこと、後から知って、俺と万里、初めて吉木に本気で怒られたよ」
「え、そうだったの?」
「怒られて、気づけなかったことにめちゃくちゃ情けなくなって、そのまま詩春に言いそびれたまま卒業した。好きってこと」
  会話の流れであまりにサラッと告げられたので、私はすぐに反応することができなかった。どんな意味で好きと言ったのかは、宗方君の顔を見てすぐに分かった。胸の中が、ザワザワと音を立てて波立っているのを感じた。今まで体験したことのない、感情の揺さぶりだった。

「ご、ごめん、今すぐ言葉が出てこない」
  何か話さなきゃと思って出てきた言葉をそのまま口にすると、宗方君は笑った。動揺して、急に目も合わせられなくなった私に向かって、宗方君は会話を進める。
「ごめん、俺の話に持っていって。でもさ、この個展行ってみない? 純粋に興味あるし、そこでもし吉木と会えたら俺も嬉しい」
「うん、アイリさんの写真、生で見てみたい。吉木とは、会っても何話せばいいか分からないけど」
「吉木と会えたら運命だし、会えなかったら俺とお茶しよう。行ってみたいカフェがあるんだ」
 会話の流れで、思わずすぐに首を縦に振ってしまった。どちらも個展に行く選択肢だったことに、頷いてから気づいた。
 宗方君は、私のことを好いてくれている。その事実は、嬉しくもあったが、同時に申し訳ない気持ちにもなった。きっと私は、宗方君には自分の過去を話せない。


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