契約書は婚姻届
祖父――達之助の云うことに腹が立つが、努めて平静なフリをした。
今日も尚一郎から尋ねられたこと以外、口を開かないように約束させられたのもある。

「まあいい。
まだその女と別れてないのか?」

横柄な達之助の物云いに、尚一郎は平然とした顔をしている。

「朋香と別れる理由がありませんので」

「理由ならあるだろう。
その女は不貞を働いた」

勝ち誇ったように達之助に云われると、さすがに冷や汗をかいた。
キスまでとはいえ浮気は浮気。
それを理由に出て行けと云われても反論はできない。

「朋香が不貞を?
どこにそんな証拠があるのですか?」

うっすらと微笑み、冷ややかな視線を送る尚一郎に、達之助は顔を真っ赤にしてぶるぶると震えだした。

「井上という男と何度も逢瀬を重ねていたのは知っているぞ!」
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