契約書は婚姻届
そっと、その涙を拭うと、幸せそうに眼鏡の奥の目が細くなった。
 
近づいてくる顔に目を閉じると、唇が重なる。
ゆっくりと押し倒されていきながら、やっと身も心もひとつになれるんだと思うとたまらなく嬉しかった。

「朋香……」

うっとりと尚一郎の手が頬を撫で、涙で潤んだ瞳で見上げる。

「|Ich bin in dich verliebt(君だけしか見えない)」

再び近づいてくる顔に目を閉じた……瞬間。

ぐーっっっっっっ!

「夕食、食べてないし、朝も昼もあまり食べなかったからね」

「……そうですね」

どちらともなく鳴り出した、大きな腹の音に、ふたりで顔を見合わせて笑うしかなかった。
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