都会人の付き合い方
「じゃ、じゃあ、僕こっちだから」
目線で僕の家を指し、帰らなければならないことを遠回しに伝えた。
学校から解放された9月1日の昼下がりも、親の畑仕事の手伝いで消化されることが今朝から決められていた。
だから…いや、違う。
それを理由にして、麻那美から逃げようとしてるだけ。
何か行動を起こそうとしても、結局何も出来なくて…今投げ出そうとしている。
これじゃあ学校の連中と同じ…ううん。アイツ等以上に酷いと思う。
それを自覚していながら、行動を改めようともしない。
この自己矛盾に怒りが募る。ごめんなさい…。
そして、苛立ちを見せたくなくて…手を解き、自分の家に帰ろうとする。
然し、その行動は阻まれた。
解いて離れた筈の、僕のより少し小さい手が、僕の腕を捕まえたからだ。
反射的に足は歩を進めるのを止め、腕を握った人の方へ向き直る。

「ごめんね…一悟くん」
言葉の始まりは鮮明な泣き声で、言葉の終わりはくぐもった不明瞭な音だった。
ただ驚いて、身動きが取れなかった。麻那美は僕を小さな手で抱き寄せ、気付いたら僕の鎖骨あたりに顔を埋めていた。
そこから、涙で何度も途切れる麻那美の息遣いが伝わってくる。
必死に溢れる思いの丈を表す水玉を抑えようとするが、どうやら難しいようで、結局は僕の服が全部受け止める。
ダムが決壊したように、閉じた目蓋の、固く閉ざそうとした唇と歯の隙間から、止めどなく感情の塊が零れ落ちていた。

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