【長編】戦(イクサ)林羅山篇
領民の恩は領主の恩
 幸村が反論した。
「我欲は徳川ではござらぬか。豊
臣家が築いた天下泰平の世を掠め
取ろうとする極悪非道。それが民
を苦しめている元凶にございま
す」
「その天下泰平も父上の朝鮮出兵
により夢と覚めたではないか」
 今度は勝永が反論した。
「お恐れながら、朝鮮出兵はかの
地にも天下泰平を広めんがため。
それを認めた五大老の一人、家康
殿にも責任があるのではないで
しょうか。家康殿はそれをあえて
見逃し、その隙におのれの領地を
広げておられた。これを盗人と言
わず、なんと言うのですか」
「いや。ご両人のお気持ち、よう
分かりました。秀頼の軽薄を恥じ
るばかりです。しかし、なぜご両
人はそこまで豊臣家のことを思っ
ておられるのか。父上はご両人に
どれほどのことをしたというので
すか」
 幸村がやっと表情を和らげて応
えた。
「私にではなく領民にです。秀吉
公は地獄のような戦乱から領民を
救い、生きる術と希望をお与えく
ださいました。その恩は子々孫々
伝えられるべきものでございま
す。領民の恩は領主の恩。その恩
に報いるのは領主の勤めにござい
ます」
「この勝永も幸村殿と同じ気持ち
にございます」
「領民のために、ご両人は命を賭
すと申すのか。……父上は家臣に
恵まれたから天下統一できたの
じゃな。よし、ご両人には隠し立
てせず秀頼の本心をお話いたしま
す」
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