【長編】戦(イクサ)林羅山篇
日光は極楽浄土
 天海は家康の神号を権現にした
ことで主導権を握り、突然、家康
の遺骸を日光に改葬することを秀
忠に進言した。
「私は権現様が死の間際に『いず
れ日光に葬るように』と申された
のを聞いたのです」
「しかし、皆の前では『金地院と
日光に小堂を建てよ』と申された
ので『葬れ』とは申されていない
ではないか」
「その時はまだどちらにするか決
めかねておられたのではないで
しょうか。日光といえば江戸城の
真北にあります。真北の空には北
極星が天上の神として輝いており
ます」
「権現様は天上の神となられるの
か」
「そう願っておられるのではない
でしょうか。いや、これは天啓だ
と思われます」
「そうか。日光は極楽浄土に通づ
るとも言われておる。これは天啓
じゃな。天海、そなたに一切を任
せる」
 十月になると秀忠は本多正純、
藤堂高虎を日光社殿の竣工奉行に
命じ、天海に縄張りをさせて工事
を始めた。
 崇伝はしばらくしてこのことを
知ったが、もはや口出しすること
はしなかった。たまたま江戸城の
廊下で出会った東舟に愚痴をもら
した。
「天海め、いつまで生きておるの
じゃ。あ奴は化け物か」
「私が思いますに、あのお方はこ
の国の者ではないのではないで
しょうか」
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