【長編】戦(イクサ)林羅山篇
天下泰平の総仕上げ
「しかしそれにしても女、子まで
殺していると聞きます」
「それだけ根深いのです。これは
疫病のように人から人へうつる病
のようなものです。心を侵され、
治すことができないとなれば子で
あろうと殺すしかないのです。こ
れをなくさねば新たな戦も起きま
しょう」
「ではまだ天下泰平とは言えぬと
いうことですね」
「その総仕上げが必要なのです。
民を苦しめ残忍な行いになってい
ることを上様だけの所業とするの
は誤りです。これは時の巡り合わ
せなのです」
「分かりました。私もそれを引き
継がねばならぬということです
ね」
「もしかすると上様は若様に将軍
の座を譲って、それをなそうとさ
れているのかもしれません。かつ
て権現様も上様にすぐ将軍の座を
譲り、豊臣家を討ち果たしまし
た。しかし若様が今のようでは譲
るに譲れないとお考えなのかもし
れません」
「では私が父上の言うことを聞く
ようにすれば将軍になれるという
ことか」
「そうなれば若様のしたいことも
叶うと思いますが」
「それで父上の天下泰平の総仕上
げがしやすくなるのであればそう
してみるか」
 道春と福は深くうなずいた。
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