【長編】戦(イクサ)林羅山篇
アダムス
 秀忠のもとには残念な知らせが
入っていた。
 元和九年(一六二三年)十一月
十九日、後水尾天皇と和子の間に
初めての子が誕生したが、女の子
だった。
「興子か。わしも長い間、男子に
恵まれなかった。和子もその血を
ひいたか。まぁよい。とにかく帝
とは仲良うしとるのだから」
 秀忠はそう言って自分を慰め、
キリシタンの弾圧に精力を注い
だ。弾圧は日増しに強くなり、貿
易にも影響していた。
 平戸のイギリス商館が閉鎖した
のだ。
 イギリス商館は先に開設してい
たオランダ商館に関わった三浦按
針ことウイリアム・アダムスがそ
の開設にも尽力していた。閉鎖し
た表向きの理由は、オランダ商館
が安価な商品を取り扱っていたの
に対し、イギリス商館は高価な商
品を取り扱っていたので、キリシ
タン弾圧の余波で売買が減り、閉
鎖することになったということだ
が、多額の売掛金を残しての閉鎖
は、幕府の圧力があったと誰の目
にも明らかだった。
 オランダ商館は布教活動をしな
いという約束を幕府と交わし、か
ろうじて残ったが、その行動は次
第に制限されていった。
 思えば、アダムスが日本に漂流
して来たことで、関ヶ原の合戦が
始まり、戦の姿を大きく変え、二
度の大坂の合戦では必要以上に多
くの人を殺す強大な兵器が外国か
らもたらされた。それを今、キリ
シタンの弾圧という形で消滅させ
ようとしていた。そのアダムスは
三年前に病で亡くなっている。
< 169 / 259 >

この作品をシェア

pagetop