【長編】戦(イクサ)林羅山篇
秀忠の体調悪化
 しばらくして道春のもとに稲葉
正勝が一人の子を連れてきた。
「先生、この子は私の家臣、塚田
杢助の知り合いの子でまだ九歳な
のですが、なかなか賢いのです。
ぜひ先生のところで教えを乞いた
いのですが、いかがでしょうか」
 この時、道春は幕府が私塾を支
援し、義直が先聖殿を寄進したこ
とに、正勝の力添えがあったこと
を悟った。
「ほぉう。好奇心の強そうな目を
しておりますな。喜んでお預かり
いたします」
「私は山鹿高祐と申します。以
後、よろしくお願い申し上げま
す」
「これはこれは、私は道春と申し
ます。一緒に学びましょう」
 お互いにちょこんとお辞儀をし
た。これが道春とやがて山鹿素行
となる高祐との出会いだった。

 寛永八年(一六三一年)
 秀忠の体調が悪化し、正月の参
賀なども取りやめとなり、江戸の
城下は静まり返っていた。
 家光は秀忠の側を片時も離れ
ず、天海に命じて病気平癒の祈祷
をさせるなどあらゆる手を講じ
た。
「家光、夢半ばでこの世を去るの
は口惜しい。しかしこれも天命。
後はお前に任せたぞ」
「父上、なにを弱気なことを申さ
れる。もう時期に良くなります。
お気を確かになさってください」
「わしには分かるのじゃ。権現様
ほどではないが、わしも自分の病
ぐらいは分かる。それよりも心配
なのは、お前と忠長のことじゃ」
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