【長編】戦(イクサ)林羅山篇
世継ぎ教育
 しばらくたったある日、駿府に
竹千代のお守役になった福が伊勢
参りに行く途中、どうしても家康
に先の病気回復のお礼が言いたい
と立ち寄った。
 家康は喜んで迎え入れた。
「福、伊勢参りとな」
「はい。竹千代様の健康祈願をし
ようと思いやって来ました。しか
しその前にどうしても竹千代様の
高熱が大御所様からいただいたお
薬で回復したことをお礼したいと
思い、お忙しいとは思いました
が、お恐れながら参上いたしまし
た」
「それは江戸城で何度も聞いたで
はないか。こたびはそれではない
のであろう。江戸では言えないこ
とでもあったか。申してみよ」
「ははっ。恐れ入ります。では、
率直に申させていただきます。私
は竹千代様のお守役として竹千代
様に世継ぎとしての教育をしてい
いのか家臣としての教育をすれば
いいのか迷っております。城内で
はすでに世継ぎは国松様との噂が
聞こえてきます。もしそうならば
竹千代様に世継ぎとしての教育を
すれば争いのもとになります。し
かしどうして竹千代様が世継ぎで
はないのか分かりません。大御所
様が竹千代様の病気回復に心を砕
きお薬を調合して下さったのはな
んのためだったのか。もしや大御
所様にはまだこのような噂がお耳
に入っていないのではないかと思
い。お恐れながらお聞きしたかっ
たのでございます」
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