【長編】戦(イクサ)林羅山篇
片桐且元の密書
 深夜、大坂城の一室だけに灯り
がともっていた。
 豊臣秀頼と母、淀は二人っきり
で会い、淀は懐から片桐且元の密
書を取り出し秀頼に読ませた。そ
して、
「大御所様は国家安康、君臣豊楽
の本当の意味がお分かりになった
ようで、こちらの望みどおり、決
戦を受けてくださるようです。そ
れに念を押すように戦をもって戦
を制するとは。道春様はどうやら
こちらの意図を見抜いているお
方。私のことを知っています」
「母上は道春様というお方をご存
知なのですか」
「以前、道春様は藤原惺窩先生の
お弟子さんとの知らせがありまし
た。そして私のことを知っている
お方といえば辰之助様以外には考
えられない。辰之助様は秀秋と名
乗られ、もうこの世にはおられな
いと聞いておりました。それが生
きていらっしゃったとは」
「秀秋。母上がよく思い出で語ら
れていた、あの小早川秀秋殿のこ
とですか」
「そうです」
「しかしそれがなぜ分かったので
すか」
「それはその密書の後の方に書か
れています。武士は武士らしく
戦って死ぬことを選ぶように千の
方に説得させると。これは千の方
を連れて行くなということです。
そして堀を埋めれば、新たに抜け
穴を掘るのは短くてすむので監視
を怠らないようにとは、抜け穴は
堀を避けよということです。この
道春殿の二つの疑念は私たちが遁
れるための条件にございます」
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