【長編】戦(イクサ)林羅山篇
幸村苦笑
 秀忠の乗った馬は曲輪の前で止
まり、秀忠は幸村らに向かって叫
ぶように言った。
「幸村殿、お久しぶりじゃのう」
 盛親が怪訝な顔になり、
「幸村。そなたの名は信繁ではな
いか」
「田舎者ということじゃ」
 幸村は苦笑いした。
 秀忠は続けて言った。
「こたびはそなたの兄、信幸殿は
病により参陣しておらん。その代
わりに子の信吉殿と信政殿が参陣
された。立派になられておるぞ。
では、また上杉征伐の時のように
よろしく頼む」
 そう言って秀忠はゆっくりと戻
り始めた。
 盛親が不信そうな顔をして黙っ
た。それを見た幸村が動揺して秀
忠に向かって叫んだ。
「待て秀忠。そのような挑発にわ
しはのらんぞ。おのれは戦って勝
てんから、このような戯言でわし
が離反することを狙っておるのだ
ろうが、わしはおのれの首を獲る
まで戦い続ける。正々堂々と戦
え。前に家康は戦で糞を漏らした
そうだが、おのれは飯ものどを通
らず、糞も漏れんのだろう」
 幸村の罵声はなおも続いたが、
秀忠は片手を上げて、それに応え
るように立ち去った。
 盛親は哀れむような顔で幸村を
見ていた。
 幸村は完全に孤立したことを
悟った。そして、徳川勢に一矢報
いる方策を一心不乱に考えるのみ
と迷いを断った。
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