帰宅部の反乱
第二章
 その日の夕方、家に帰った香織は、制服がしわになるのもかまわずに、そのままベッドに横たわった。何もしたくなった。何もできなかった。
 全国大会の出場するという大きな目標を持って入ったソフトボール部。そのソフトボール部が、まさか形だけのものだったとは。
 恵美によると――。
 緑風高校では、クラブ活動の参加は、なかば義務となっている。部活動も、学校教育の一部、というのが理由らしい。したがって、やりたい部活動がない生徒や、そもそも部活動をやる気のない生徒も、いずれかのクラブに所属しなければならない。
 ところが数年前、何人かの生徒が、一計を案じた。形だけのクラブを創り、そこに所属してしまったのだ。そうすれば、学校の方針に反しない。そこで形だけの活動を行い、さっさと家に帰ってしまう。文字通りの帰宅部だ。
 とは言うものの、まさかクラブの名称を「帰宅部」とするわけにはいかない。何かしらの看板が必要になる。そこで引き合いに出されたのが、少し前に部員不足で廃部になったソフトボール部だ。表向きはソフトボール部の再興、ということだったが、実際は看板だけである。
 ただ、ソフトボール部である以上、練習はしなければならない。運動部なので、グラウンドに練習スペースも割り当てられている。そこで、形だけの練習を行っているのだ。当然、練習時間は極端に短くなる。
 三年生がいないのも、形だけのクラブだからだ。三年生は受験を口実に、クラブに籍だけをおいて、練習には顔を出さない。したがって、二年生の城ヶ崎有里がキャプテンについている。
 つまり、このクラブは、ソフトボール部という看板をかかげた、帰宅部なのだ。
 香織はそれを知らなかったのだ。通常のソフトボールだと思い込み、入部してしまった。こんなクラブが、全国大会に出場できるわけがない。県予選はもちろん、練習試合ですら勝てないだろう。何しろ、対戦相手は本物のソフトボール部なのだから。
 いっそ退部して、新たにソフトボール部を創ろうかとも考えた。だがそれも無駄であろう。形だけとはいえ、この高校にはすでにソフトボール部は存在する。あらためて同じ名称のクラブなど創れるわけがない。仮に別の名称でクラブを創っても、大会にエントリーするのは、すでにあるソフトボール部のほうだ。今の香織には、何もできない。
 後から後から、涙が出てきた。去年の夏、全国大会を逃したあの日と同じだ。あの時はまだ、高校で全国大会に出場するという、いわば次の一手があった。だが今は、それすらなくなってしまった。
 香織は、泣くことしかできなかった。
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