貴方の残酷なほど優しい嘘に
優しいあなた
仕事を終え、会社を出るとまだ明るかった。7月の日は長い。だが、日が長くても1日の時間は同じだ。

帰らないと

帰って洗濯機を回して、ご飯を作って。冷蔵庫の中何があったかな?

私は思い出そうとしたが、タマネギが野菜室に入っていた事しか思い出せなかった。最近、疲れている所為かこうゆう事が多い。今朝も寝坊して、彼と会社の上司からこっぴどく怒られた。29歳とゆう年齢も関係しているのかもしれない。

今の彼と付き合いだして7年、同棲して5年、彼からは結婚の話は一度も出ていなかった。2年程前に、私はその事を考えるのをやめる事にした。それをきっかけに自分の気持ちが彼から離れていくのがわかった。

それでも別れていないのは、心の片隅で結婚とゆう文字が鎮座して居座っているからだろう、人並みに結婚願望もある。だが、この年齢で次を探すとゆうのが億劫なのと、別れて実家に帰った後の事が気になるからだった。

実家に帰れば8つ歳下の妹もいる。仲は良いが、最近妹を見る度に自分の歳を感じる様になった。元々、自分より妹の方が美人なのに、さらに年齢差が拍車をかけている。

冷蔵庫の中身を思い出す事を諦めて、家の近くにあるスーパーに寄り、適当に食材を買って帰った。

「・・・ただいま」

玄関を開けると、中は真っ暗だった。帰っているはずの彼の姿はなく、何か連絡が入っているかと思い携帯電話を開いてみるが、何の連絡もなかった。

仕事が長引いているだけだろうと思い、買い物した物を取り敢えず冷蔵庫に入れて、バスルームに向かった。

前の日に出来なかった洗濯物をネットに分け、洗濯機を回す。ググッ!と形容のし難い音がして洗濯機が動きだしたのを確認してからキッチンに戻った。

カレーでいいか

鍋からカレーのいい匂いがし始めた時、時計を見ると8時半を回ったところだった。いくら何でも遅すぎる。

携帯電話を開いて、履歴の1番上にある彼の名前を押すと、無機質な機械音が聞こえる。

1回

2回

3回

4回

10回目のコール音が終わった時、漸く機械音が彼の声に変わった。

「もしもし?」

彼の声の後ろからざわざわと音が漏れ聞こえる。

「遅くなるの?」

「ああ、後輩にせがまれて呑みに来てるから、飯いらない」

私が急な会社の飲み会で帰れない時は怒る癖に、自分はいいんだ?

とは、言わなかった。言っても無駄なのはわかっている、不毛なやり取りをするのも面倒だ。

「そう、わかった」

電話を切ってから、カレーの香ばしい匂いに吐き気がした。同時に、胸の奥から抑え難い何かが上がって来て、気付くと頬を涙が流れていた。

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