目の覚めるような赤だった
帰り道思う。
トシさんの言うことは間違っていない。私は母に養ってもらっている。今の暮らしだって、母の許しあってのものだ。
だけど、それだけで女同士の家族はうまく整理できないこともある。
トシさんにはわからない。あの人は、正しいけれど人の弱みをあげつらねて馬鹿にする人だ。
家族はもういないのだろうか。ご主人は前に亡くなったということを聞いた気がするけれどお子さんはいないのだろうか。きっと、家族にもあんな態度をとるんだろうな。案外、煙たがられているかもしれない。あの性格なら有り得る話だ。
大汗をかいて帰宅し、シャワーを浴びると低体力の私は必ず眠くなってしまう。そこで、30分だけ敷き直した布団で休むことにしていた。
今日は気疲れしたせいか普段より身体が重い。ふと私は携帯電話の目覚ましアラームを付け忘れて眠りに落ちてしまった。




「マナカ、マナカ」

夢から覚めたのは迅の声。
ゆるゆると瞼をあけると、天井と覗き込んでいる迅の顔があった。

「迅」
「ずっと寝てたのか?」

部屋は日が陰り、迅の顔は暗い。エアコンの低い稼働音とひぐらしの声。30分なんてものではなく寝てしまったようだ。

「案外、のんきなところもあって安心する。マナカは隙がないように振舞うのが好きだから」
「そんなんじゃないよ」

私はけだるく身体を起こした。隙だらけだから、トシさんには見透かされ突っ込まれる。
私は子どもだ。子どものまま、時間だけが私を大人に押し上げようとしている。

「迅は今、帰ってきたの?」
「おう、そうだよ。暗くなる前に帰んないと、クラゲになっちゃうからなぁ」

頭が重い。稀におこる片頭痛がきそうだ。
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