狂おしいほど惹かれてく(短編集)
203:世界は広かった
【世界は広かった】




 最近運動不足だったから、近所をあちこち走って、汗だくで部屋に帰って来た。プロテインを飲んで、さあシャワーを浴びようと服を脱いだ、そのとき。

 何の前触れもなく、突然、ガチャリとドアが開いた。入ってきたのは中学高校、さらには大学まで一緒だった同級生。
 その子は挨拶もなしに「今日は暑いねぇ」なんて言いながら、持っていたコンビニ袋の中身を冷蔵庫に移している。

 その子――彩香とはもう十年以上の付き合いで、社会人になってからもしょっちゅう飲みに行ったりお互いの部屋を行き来したり。特に学生時代から住んでいる、築三十年、木造二階建てのアパートは「良い感じに古くて狭くて落ち着く」らしく、彩香はしょっちゅうここに来ていた。

 だから今日みたいに何の前触れもなく遊びに来るということも初めてではないけれど……。


 今オレはシャワーを浴びようとしていて、風呂場で服を脱げばいいのに、今日に限って部屋のど真ん中で全裸になっていて……。
 長い付き合いの友人とはいえ、男と女。全裸で部屋のど真ん中にいた同級生をガン無視というのは、いかがなものだろう。

 それなのに彼女は恥ずかしがる様子もなく、「アイスも入れといたよー、あとで食べよ」と言いながらオレの横を通って、ソファーに沈んでテレビを付ける。

「いや、あの、ちょっと、オレ……着替え中なんっ……」
 動揺するオレと、
「あー、いいよいいよ。続けてどうぞー」
 気にせず寛ぐ彼女。自宅か!

「いや、おまえ一応女でしょ! ちょっとくらい恥ずかしがって!」

「え、何を?」

「だから、オレ、今、裸……!」

「だって智輝の裸なんて何度も見てるし」

 突然の衝撃発言に「きゃーっ! もうオヨメに行けない!」とジョークで返すけれど、彩香は「勘違いしないでよ」と、完全無視で話を続けた。




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