悪役令嬢の華麗なる王宮物語~ヤられる前にヤるのが仁義です~
しかしながら、その瞳はどことなくつまらなそうで、ニコリともしない彼女を、その時のレオナルドは具合が悪いのだろうかと口に出さずに心配したものだった。

その晩餐会で会食後の歓談のひと時に、彼女は上手なピアノを披露してくれた。

たくさんの拍手をもらっても澄まし顔を貫いていたオリビアだったが、彼女の母親がピアノの上達を褒めて、その胸にぎゅっと強く抱きしめたら、彼女は笑った。

キラキラとした宝石のような瞳を細め、嬉しくてたまらないといった様子で無邪気な笑顔を見せたのだ。


(本当に嬉しい時だけ笑うのか……)


レオナルドは驚きの中で、この少女が大人になったら、どれほどに魅力的な女性になるだろうと考えたものだ。


(いつか俺に対しても、そんなふうに眩しい笑顔を向けてほしい……)


七年ほど前のその願いは実を結び、今、彼の隣にいるオリビアは、心からの笑顔を見せてくれている。

レオナルドの胸には喜びが込み上げる。

しかし、群衆に手を振る彼女の手に視線を向ければ、申し訳なさに心が痛んだ。

彼女の両手には、シルクの白い手袋がはめられている。

公の場で、彼女は手袋を脱ぐことができなくなってしまった。

それは冬のあの日の刀傷が、彼女の指に茶色の線となり、残ってしまったからであった。

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