最後の花火
 紗菜の読み通り、自転車はかなり向こうまで行っていた。

「はい?」

 朝陽はあっさり引き返してきた。自転車が紗菜のそばに停車し、サドルにまたがったままの朝陽の瞳が紗菜を捕えた。
 紗菜は少しもひるまずに言った。

「ありがとう」

 ん、と言って朝陽は心底嬉しそうな満面の笑みで返してきた。遠くからは見たことのある笑顔、でもこんなに間近で自分だけに向けられたことはない。


 嬉しがっている朝陽を見てこっちまで嬉しくなるんだからすごい、と紗菜は急に湧きあがった感情に驚きを隠しきれずにいる。誰かの笑顔にこんなにもどきどきするなんて、知らなかった。心臓の音がうるさいけれど、どこか心地いい。もっとこのままでなどと思ってしまった。

 それが伝わったわけではないだろうが、朝陽がぽつりと言った。

「今日のあいつらとアプリで話してたんだけど、紗菜って人気急上昇なんだよね」

「はあ」

 朝陽の話はよく頭に入ってこなかった。自分のことを言われた気がするが、人気急上昇だというのだから最近のアイドルかなにかのことではないか、と考えた。


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