イジワル外科医の熱愛ロマンス
『はい。血流を遮断します。……鉗子』


祐は患者さんの術野に目を凝らしたまま、器械出しナースに淡々とした口調で指示した。
園田教授の隣のナースが、血で赤く染まったグローブを嵌めた祐の手に、パシッと音を立てて器具を渡す。


外回りナースが、患者さんのバイタルを読み上げた。
モニターで患者さんの状態を観察していた麻酔科医が祐を見遣り、GOサインを出す。


目で会話するような合図の後、祐が鉗子を操った。
患者さんの大動脈をクランプして、血流を遮断する祐の手元を、園田教授が見守っている。


ガラスを隔てた見学ルーム内でも、みんなが固唾を飲んでオペ室を見つめている。
真剣な瞳を患者さんから片時も逸らさない祐から、私も目を離せない。


「さあ、無事に切り替え終了。患者の心臓は拍動をやめ、停止した。ここからが一刻を争う。教授と宝生先生の腕の見せ所だ」


木山先生がちょっと芝居がかった口調で解説するのを聞いて、研修医たちはほとんど張りつかんばかりに、ガラスに身を乗り出した。
私も、ファイルを抱き締めた腕に、無意識に力を込める。


麻酔科医は、患者さんの体温を三十度前後に保つ為に、投与される薬液量を細かく調整している。
外回りナースが、心停止からの経過時間を定期的に伝える。
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