炭酸アンチヒーロー
「ね、英語って今日何やるんだっけ」

「この間和訳が終わったからー、今日はキョーフの小テストだぞ~」

「うわあ、すっかり忘れてた」



芝居がかった佳柄の言葉を聞いて、沙頼が頭を抱えている。しっかりしているようで、意外とうっかりさんなんだよなあ。

そこでふとあることを思いついた私は、英語のノートをパラパラ捲っていた沙頼に向けて口を開いた。



「ねー沙頼。沙頼ってたしか、辻くんと中学同じだったんだよね?」

「え、うん。それがどうかした?」



うなずいた沙頼が、きょとんと首をかしげる。

あ、どうしよう。勢いで口を開いてみたはいいものの、続けるべきうまい質問が思い浮かばない。

早くも盛大に後悔しながら、当たり障りのない言葉を内心必死で探した。



「や、えーっと……辻くんって中学の頃から、今みたいに無愛想な感じだったのかなーって」



結局口から出たのは、そんなセリフ。やっぱり脈絡がなさすぎたのか、ふたり分の不思議そうな眼差しを向けられてしまった。

でもここで金曜日に辻くんとの間にあった出来事の話をするのは、相手が仲良しの沙頼と佳柄だとしても躊躇われる。……だって、ものすごく恥ずかしい。ひたすら恥ずかしい。

そんなわけで若干しどろもどろになりながら、続ける言葉をなんとかしぼり出したわけだけど……。

私と辻くんが今まで普通の友達レベルの関わり合いすらしてないこと、このふたりもきっと知ってるからなあ。なのに突然こんなこと言い出して、当然不思議に思うよね。

けど、これって仕方ない。あんなふうに告白めいたことを言われたら……それまで特別意識したことがなかった相手だとしても、誰だって多少なりとも気にはしてしまう、と思う。

少なくとも私には、何事もなかったかのように平静を装って接するなんて器用なこと、到底できそうもないんです。
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