炭酸アンチヒーロー
最近の気温やゆうべ観たドラマの話など、しばらく他愛のない話をしていた私たち。

ふと廊下に目を向けた佳柄が、あっと声を出した。



「ねぇ見て見ておふたりさんっ、教室の前のドアの方っ」

「え?」



ひそめた声に促されるまま、視線を向ける。

そして私は、思わず息を詰めた。



「あ、金子くんと中井さんだ」



なんの他意もなく、沙頼がつぶやく。

開いているドアの向こうの廊下に見えたのは、一組の男子生徒と女子生徒の姿だ。

それは紛れもなく、金曜日の放課後に私が中庭で見たふたりで。

楽しげに話すお似合いのツーショットに、ずきんと胸が痛んだ。



「こっから見ててもラブラブって感じだねー。あのふたり、金曜日から付き合い始めたらしいよ」

「おおっ、まじでか! こりゃー泣く人続出なんじゃないかね~」

「人気あるもんね、金子くんも中井さんも」

「……そう、だねー」



ふたりの会話に同調するようにうなずき、ぎこちなく笑う。

──佳柄と沙頼は、悪くなんてない。私にすきな人がいることはバレていたけど、その相手が金子くんだってことは、「恥ずかしいから」と言って教えていなかったのだ。

教室の中にいる私たちのところまで、金子くんたちの声は届かなくて。けれど向かい合ったふたりの表情からは、とてもしあわせそうなことが窺える。

……私今、うまく笑えてるかな。



「あ、辻ー! おっまえどこ行ってたんだよ!」

「ん、あー……」

「? 辻、どーかしたん?」



近くにいた男子のグループで交わされている会話が、耳をすり抜ける。

口の中で砕けたレモンキャンディが、やけに酸っぱく思えた。
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