炭酸アンチヒーロー
「よし、無事通過完了」

「つ、辻くん、手が……」

「ああ、わりぃ」



言いながら、どさくさに紛れて掴んでいた手を離してやる。すると蓮見があからさまにホッとした顔をするのを、視界の隅で確認した。

……わかってはいたけど、わかりやすすぎて若干ダメージが。

自分の反応如何によって簡単に俺のHPが増えたり減ったりすることを、きっと蓮見は知らない。

あはは、と無理やり絞り出したような乾いた笑い声が、斜めうしろから小さく届いた。



「ご、ごめんねなんか、わざわざあの場から連れ出してもらっちゃって」



無理に強がってみせ、明るい声を出そうとしている蓮見。

……その健気さが、痛々しいって。甘やかしてやりたいと俺の心をざわつかせることに、気づかないのだろうか。

平静を装い、前を向いたままで応える。



「別に、あのままだと部活行けそうになかったし」

「いやそんな、私なんか放って先に行けばよかったのに……」

「俺、あそこで動けなくなってる奴置いて先行くほど冷血なわけではないけど」



廊下を進む足は止めず、ちらりと背後を流し見ながらそう言った。

目が合った蓮見は一瞬びくっと体を震わせ、気まずそうに自分の足元へ視線を落とす。


いや、あのさ。別に怒ったわけでもないんだけどさ。

……やっぱりこわがられてるな、俺。

なんて、もし直接本人に言ったとしても、小動物みたいにわたわたしながら必死に否定されるんだろうけど。
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