炭酸アンチヒーロー
「つ、辻くんってひどい人だ……」



気が緩んだ私の口からこぼれ落ちたのは、そんな恨み言のような小さな嘆き。

すると辻くんは膝を抱える私を、無表情な顔でじっと見つめてきた。



「(あ……もしかして、怒った?)」



威圧感のあるその表情に、思わず軽く身構える。

えーとえーと、いやいやどちらかというと怒るべきは私の方でだけどなんか辻くんって怒るとこわそうかもああでもやっぱりここは私がビシッと言わなきゃなのでは。

一瞬のうちにぐるぐるといろいろなことが頭の中を巡るけど、この状況を打破する考えは浮かばない。

……けれども彼はそんな私の思考を裏切り、口元に笑みを浮かべたのだ。



「うん、俺はひどい奴だよ。だって今蓮見のこんな場面に出くわして、ラッキーだと思ってる」



へ? と私が疑問を口にする間もなく、目尻が上がったふたつの瞳を細めてそれはそれは綺麗に笑った辻くん。

楽しげな顔のまま右手を伸ばし、呆気にとられる私の頬へと触れる。

そして彼は、至って飄々とこう言い放った。



「俺のこと、すきになれば」

「………はい?」



たぶん今の私、すごく間抜けな顔をしていると思う。

ええっと、辻くん今なんて言ったっけ? んん? 私の耳がおかしくなったんじゃなければ、『俺のことすきになれば』って?

……どういうこと、ですか?


衝撃的な失恋をしたばかりの放課後。私の体を、また新たな衝撃が走った瞬間でした。
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