LESSON BY 先生
第1章




高校にはいってから
胸まである長めの髪はダークブラウンに染めた。


パーマもゆるくかけて、爪は淡いピンク色。


化粧は可愛いさとウケの良さを重視したナチュラルメイク。


今日もめちゃめちゃにおめかしして仕事場へ向かう。


わたし、佐藤 美日(さとう びび)の仕事場。


そこは夜の店キャバクラ。


本当は17歳だけど19歳になってる。名前はエレナ。


仕事は辛いけど、お金のために学校に通いながら夜はここで働いている。


学校から電車で一時間かけてほぼ毎日出勤。かなり、学校から離れたところを選んだからバレたり噂になることはないと思ってた。


今考えたらほんとに甘かったと思う。





今日もいつものように学校が終わり、電車でメイクして着替えて出勤をする。


いやんなるくらい雨が降ってた。


「エレナちゃ〜ん。こっちこっち〜」


「は〜いっ」


いつもよりワントーン高い声で返事する。


はあ…今日はいつもより疲れたな。早く帰りたい…そんな気持ちを我慢して笑顔を作る。


「エレナちゃんー!こっち来れるー?」


新規来店でスーツを着た3人組がテーブルに座っていた。


仕事帰りかな、お金持ってそうだな、とかそんな呑気なこと考えてた。


わたしの思考をぶっちぎるひと言が聞こえるまでは。


「……お前、佐藤?」


えっ、


わたしの本名、つぶやくその人。


どこかで聞いたことある声と


どこかで見たことあるスーツ姿。


……佐倉先生だ。


なんでここにいるの?


ウソウソ、ありえない。ヤバい。


全身から汗がふきだすのがわかる。


「え?なに?お前ら知り合いなの?」


佐倉先生のとなりにいる若そうな男の人が聞いている。


にっこり笑ってごまかして足早に席を離れた。


どうしようどうしよう、これ以上見られたらまずい。とにかく今日はもう帰らなきゃ。


咳をするフリして早退して、服はそのままで店を飛び出した。


まだありえないくらいの雨が降っていた。


傘もなくてピンヒールのまま走り出した。


走りだそうとした、ら。


「待って。佐藤だよね?なんでここにいるの?」


腕をがっしり握りしめられて引きとめられていた。


佐倉先生に。


「……佐倉先生こそ、どうしてここにいるの?」


「僕は知り合いの付き合いで…。とにかく佐藤、高校生だろ?こんなとこなんで…」


「…誰かに言うの?」


何も返さずに聞き返した。佐倉先生は少し黙った。2人とも雨にずぶ濡れだった。


「…言わない。」


えっ、なんで?わたしは学生で先生は教師だよね?


「だけど、条件がある。次見に来た時までにココを辞めること。できる?」


「今回は見逃してくれるってこと…?」


「うん、そうなるかな。」


「わかった。そうします。ごめんなさい。佐倉先生ありがとうございます。」


ゆっくり佐倉先生の手を離し歩いた。


どうしてわたしを見逃してくれたの?


わからない。


なにもなかった佐倉先生とわたしのあいだに秘密ができた。


佐倉先生が放った言葉が頭の中をぐるぐるして離れないまま、駅まで歩いて帰った。


外はもう11月の寒さで雨がまだ強く降っていた。


< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop