カフェの人々
タタタンタンッ!
脳波に良さそうなジャズの音色に脳波に悪そうな硬質な音が割り込む。
反射的に音のする方を見ると今朝初めてこのカフェにやってきた男がいる。
いつもその席でスマホをいじっている気の弱そうな男はトイレの近く隅の席に追いやられている。
鳴り止まない脳波に悪そうな音を遮断するため、俺はポケットから耳栓を取り出した。
こういう時のためにいつも忍ばせているんだ。
よしこれでオッケーだ。
そう思ったのもつかの間。
耳栓などものともしない大音量の声が響く。
「藤木と申します」
その声と名前に後頭部を殴られたような衝撃が走る。
俺の悪夢が一瞬にして蘇る。
今でも俺の部屋の壁にはあの時打ちつけた釘の跡が残っている。
半分ノイローゼだった自分は否めないが、その原因をつくったのは俺の部屋の上に住んでいた住人のせいだ。