全て美味しく頂きます。
 料理が運ばれてくるまでの間も,やたら陽気にお喋りを切らさない彼。
 お腹を空かせていたという彼が食べ始めて,私はやっと口を開くことができた。


「それで、あの…」

「まあ、難しい話は後にしよう。ここの新作のソテーは絶品でね」

 最近になって誰とここへ来たのだろう。
 少なくとも,私でないことは確かだ。

 ともすれば揺らぎそうな気持ち。
 私はチラッと向こう側の柱を見つめ,再び決意を固めて前を見据えた。

「はぐらかさないで。
 私今日は,副支店長にきちんとお話ししたいことがあってお時間を頂いたんです。
 話が終われば,食事はせずに帰りますから。
 私__」


「何で?」

 皆まで言わせず,彼は言葉を被せてきた。
 
「別に,これまで通りでいいじゃない。
 わざわざ僕たちが別れる必要はないんじゃないの?」

 食事をする手も留めず、何の気なしにそう言うと、口にしたソテーを白ワインで流し込む彼。
 思わず私は声を荒げた。


「ですけど!
 昨夜もご覧になられたとおり、私は…」
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