そんな君が好き。



「ほんま、あんた何考えてるん?」

矢澤は怒って帰ってしまった。

「彼氏がいるのに、僕のデートに応じるなんて、尻軽にもほどがあるよ!」

と謎の捨て台詞を吐かれてしまった。


これで、明日から会社の中であらぬ噂を立てられてしまうに違い無い。


「ごめんね。志帆さん……でも僕は今、ずっとこっそり眺めていた志帆さんと普通にお話しできていることの方が、奇跡だから、嬉しくてそっちのことで頭がいっぱいだよ。さっきの臭さも、志帆さんのだと思えば我慢できると思っていたけど、相手の男の人だったんだね。体臭のケアも少し考えないと……。。志帆さんは僕の足の臭い大丈夫かな?」


「もう足の臭いはええねん!」

「嗅いでみる?」

「誰が嗅ぐか!」

「志帆さん……好き」

「そろそろ警察突き出すで」


睨みつけて、志帆は言った。


こんなことを続けられていては、今後万が一、運命の人に出会った時に邪魔されるに違い無い。


「そ、そんな……そんなに激しく僕のことを意識されたら、僕照れちゃうよ……」


「あんた話し聞いてるん?」


「やっぱりただ眺めているだけなのと、実際に話をするのとではだいぶ違うね。僕はどんな志帆さんでも受け入れてみせるよ」


「……もういやや」


はあ。と深いため息を吐く。


「きっと、そのうち慣れるよ。僕と君は運命で結ばれているからね」


「絶対嫌や!」


「またまた、照れちゃって」


「彼氏はあんた以外で作ってやるからな」


「お、焼き持ち作戦?さすがだなぁ。志帆さんったら」


「そういう意味じゃなくて」


「多少のわがままくらい何でも聞くよ。志帆さん」


にっこり笑っていう伊月に脱力する。


どうして、この男は人の話しを聞かないのだろうか。


しかも少し楽しいと思ってしまっている自分がいる。


ストーカーということを除けば、伊月は完璧に近いと言っていいほどだ。


顔も整っているし、仕事だって安定している。


将来を視野に入れるとしたら、自分のことをちょっと好きすぎるくらいの旦那さんの方が幸せにしてくれるのではないだろうか。


「でも、何で、うちがあの店でデートしてるって知ってたん?」


「ん?これだよ?」


盗聴器を悪びれも無く、出して伊月は笑った。


「……」


「僕以外の男と寝ていたら、相手をこの世から消してやろうと思ってさ。これのおかげでなんとかなってよかったよ」


「あんた、まさか」


「夜寝言結構言うんだね。志帆さんかわいい」


「警察に突き出してやるわ!ボケェ!」


やっぱりありえない。


一瞬でも、この男でいいのではないかと思ってしまった自分がアホだった。


「そんなに怒らないの」


「怒るわ!」


「そんな君が好きなんだけどね」


この2人が交際をスタートするのは、もう少し先のお話。



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