海へ...
「やだ……。もう、いやだ……」

あたしは、もう走ることに疲れていた。

カオルにも捨てられた。

ヒロシも死んだ。

お母さんは死んで、

お父さんとあたしはバケモノになった。

村の人たちもみんなバケモノだ。



――死のう。



あたしは木にロープを括りつけた。

これで、やっと楽になれる。

悪夢の世界から、――抜け出せる。


だが、そのとき、猛烈な吐気があたしを襲った。


「オゲゲーッ」


そして、強烈にすっぱいものが食べたくなった。


おまけに生理も来なくなった。


おなかの中から、何者かがあたしを蹴った。


「子供……! あたし、妊娠してたの!?」


母の問いに答えるように、おなかの子が、またあたしを蹴った。


「おめでとうございます!」


あたしは、自分で自分を祝した。

あたしの中には、カオルと、あたしの子がいる…………。


「そうと分かれば死んでなんていられないわ」


出産に備え、あたしにはスタミナが必要だった。

幸い、あたしの手にはうなぎが握られていた。


「いただきます!」


あたしはうなぎを食べた。



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