ずっとキミが好きでした。
歌い終わり、食べ終わり、お互い探り合いの時間が流れた。




訪れた静寂が私たちを優しく包む。




唾を飲み込むのも躊躇われる沈黙をしばらく過ごし、決心したように話し出したのは、明日音くんだった。







「オレさ、“大丈夫”って言われたんだ」







「大丈夫って…何が?」







「夏芽が、毎回来た時に言うんだよ。“明日音くんが居なくても、私たち頑張ってやってるから、心配しないで。大丈夫だから今はゆっくり休んでね”って」







『オレって必要?』





あのメッセージの意味を私はようやく理解した。





「その言葉聞くと、マジで心が折れんの。ああ、オレが居なくてもやれんのね、じゃあオレ要らないじゃんって、自暴自棄になる。耳は今んところ完治は難しいって言われてるし、補聴器着けても今まで通りに音楽やれっかわかんねえし…。いっそのこと、バンド辞めちまおうかな~なんて思ったり」








そんなの…








そんなの…







そんなの…






 
ダメだ。








私は勢いよく立ち上がって、ビリーブを熱唱した。


「おい、音痴!!止めろ!!オレの耳、悪化するわ!」と明日音くんに怒鳴られても歌いきるまで止めなかった。


止めたくなかった。




止めたら伝わらない。


私が伝えたいことの1ミリも伝わらない。



だったら下手くそでも良い。


明日音くんの耳がダメになっても良い。



明日音くんの心に響いてほしい。





そう思って歌った。







「暗い話したからって、突然バカ騒ぎされても困るんだけど」






呆れ顔で私を見つめて来た明日音くんに、私も視線をぶつけた。


ちゃんと向き合って、伝えたい。


私は、明日音くんの両手を握り締めた。



 


「おい、何すんだよ?!」






「いいから良く聞いて!」 






ばあちゃんが大事な話をする時、私の両手を包み込んで話をするのを思い出した。





『大事なことは、相手の目を見て、心にちゃんと伝わるように話すんじゃ』






ばあちゃんの声がどこからか聞こえて来たような気がした。








「明日音くん。私は…あなたを信じてる。この前紙に書いたこと、ウソじゃないよ。私は…ーー明日音くんの歌声が好き。明日音くんから音楽取っても、明日音くんからは音楽しか出てこないんだよ。明日音くんは必要のない人間じゃない。私は今まで生きてて、明日音くんが要らないなんて思ったこと無い!みんなだってそう思ってる。だから…」







「わかったよ」








明日音くんが私の目を見て呟いた。







「わかったから、手離せ」






「ちょっと、待って。一番大切なこと、まだ言ってない」







「は?」









私は言い終わった後のことを考えた。





もう昔のようには戻れないかもしれない。


仲の良い幼なじみという関係が、良くも悪くも、たぶん崩れてしまう。






でも、今言わなきゃダメなんだ。


意味が無いんだ。




明日音くんの耳が微かでもいい。


聞こえているうちに言いたい。








私は、部屋中の空気を丸ごと吸い込む勢いで、鼻から酸素を吸い込んで、言った。
















「明日音くん。…ーーーずっとキミが好きでした」
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