五感のキオク~好みの彼に出会ったら~
入社5年目。同僚はほとんど結婚退職してしまっていた。

結婚までの間なんて思って入った会社も、そうも言っていられない年齢になりつつある。



「今日、新しい取引先の方いらっしゃるから対応よろしく」



新規の取引先の時は上司が私に声をかけてくる。

新人の仕事であるお茶出しで何かあったらいけないと言う理由で。

そんなことはよくあることで私は「わかりました」と言って来客のある時間を上司に確認し、仕事に入った。



今時、お茶出しなんて誰がしたって一緒だって。

心の中で悪態をつきながらも給湯室に向かう。



担当営業によって、コーヒーだったりお茶だったり先方の年齢や嗜好によって変えているらしいけれど、私にとってはそんなことどうでもよかった。

とりあえず、言われた通りのものを粗相のないようにお出しするだけ。

ただそれだけのはずだったのに。



今日のリクエストは日本茶。

初夏になり、そろそろ冷たいものも欲しくなる。

外から入ってきたら熱いお茶というわけにもいかないだろう。

そんな事も考えつつ、お茶の準備を進める。
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